Carrera RS

伝説はとやかく誇張される
それだけ思い入れという物は記憶を美化するのだ

だが、全てが嘘と言うことはない
経験したものが語る口調は興奮から冷めなかっただけなんだろう
そこまでの価値は、どこにあるのだろうか
なにをそんなにナナサンは夢中にさせるのだろうか

たった65000Kmを回した計器が語るように
そのナナサンカレラはただゆっくりと世の中をクルーズしてきた。
ナナサンは大まかにわけてツーリング、スポーツ、ライトウェイトとあるが
これはサンルーフに純正クーラーを備えたグランド・ツーリング
まさに一般道を走るためのホモロゲカーだ
FIAグループ4であったとしてもそして210PSであったとしても
その走りは優雅でまるでポルシェであることを忘れる

ライトウェイトRSやRSRが見せるような野太いFRPナローというものは
まさにポルシェがターボチャージャーによって狂気の沙汰になっていく
布石を築くのだが、このGTタイプはあくまでもナローが持つエレガントさを保っている最後の911モデルになる
そしてこれが最後のボットデザインなのだということも付け加えたい。
高潔ミニマリストのボットが筆を置き、ポルシェを去ったのは
巨大化するマーケットや親族会社にありがちな軋轢、中小企業の経営難等
テクニカルな問題だけではなく、まさに市場がアメリカへ飲まれていくのに
耐えられなかったのでは無いだろうか。

小さい商売を望み、あくまでも理想高くゲルマンマイスターの心血を注ぎ
敗戦からの復興を象徴するような輝かしいレース戦歴を作り上げた立役者が
排ガス規制と無骨なスタイルぶちこわしの安全装置を余儀なくされたことは
なんだか、悔しさもあったに違いない。
917K、RSR3.0、そして934の登場でアメリカレーシングを圧倒したが
レーサーの死に代表される陰の濃い歴史を持つことになるのは
ただがむしゃらに突き進み、もぎ取った栄光の空しささえ感じる。

ナナサンはそんなポルシェが最後に放ったサラブレッドである
安定したクルーズをしながらもふと気が向けば1つ落としてサイドウェイ
その瞬間に6300回転の咆哮が2.4Lにはない官能的な揺さぶりを持つのだ。
伝説はかくも悲劇に語られるほど心に刺さる物だが
ナナサンは絶賛の光に当てられて暗い影を落としている

なぜかそんなところに惹かれてしまうのだ

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